『新春三題噺』桃林亭牛扇

このたびは「妖界東西新聞」新年初摺りのお年賀企画として「何かひとつヤレ」との事ですので牛に縁あるタベモノを題に頂戴いたしまして、お古い所ではございますが、ばかばかしき三題噺なぞを、牛のよだれで、だらだらと御一席申し上げます。
題 ○しらたき○とうふ○たまご
エェ、むかしの鳥羽絵には、天狗の玉子なんて画題がありまして、枝の上から……そうですねェ、マーケットなどでお求めになりますと、9Lくらいの寸法になりますようなバカでかい玉子が転がって来て、その下で人が大口あけてギャー、なんて顔をしてるという絵柄になっておりましたそうですが――芭蕉翁が「象潟や雨に西施がねぶの花」と詠んだことでも知られる、奥州の象潟にある奈曽の白滝という滝に、この天狗の玉子の事のほか大きいのがある、といったようなウワサがポッと出ました所、丁度あの辺りは風光明媚な事も手伝いまして、各地の意欲・関心態度のよろしい……まァ早い話が、スコブル暇な、おばけさん方が物見遊山も兼ねて、この奈曽の白滝にその大玉子を見物左衛門と、しゃれこみ出しましたソウデ。
そして、次第次第にこれが大増加して参りますと、その雑踏に閉口しだしたのが、ここの滝壷に住まっていたオロチ。シャクに触るってんで、滝壷にある巣穴の中から、見物に来るおばけ衆をジーっとにらんでおりますと、後ろからおかみさんオロチも一緒に鎌首をもたげて、
おかみ「どうだろまァ、おまえさん、大変なもんだねェ。
オロチ「ほっとけほっとけ、あんなつまらねぇものなんか見にきやがって、まったく酔狂なもンだョ。
おかみ「おや、でもこうして眺めてるってのも面白いもんだよ、見て御覧よ、にわとりのおばけはヤッパリ行列の先陣きってのぼっていくよ。
オロチ「なんでヤッパリなんだョ。
おかみ「やだねぇ、昔から言うだろ、鶏口トナルモ牛後トナルナカレって。
オロチ「そういや、そんな文句、おとといあたりカレンダーの脇っちょの金言欄に書いてあったな。
おかみ「ほら、しんがりは牛鬼だョ、おまんじゅう食べながらのぼっていくよ。
オロチ「ヘン、蛍光灯ト牛丼トなると、なんて戯れ言はどうでもいいってんだ、大体あいつらは……!おい、なんだかウチの壁がギッシギッシ言い出したゾ。
おかみ「あらヤダ、いっぱい見物が来たもんだから、そこらの根っこがくすぐったがって地盤がゆるくなっちまったのかねぇ、
オロチ「ウチを壊さっちゃぁたまらねェ、子分どもを上に出して、あいつらにアブねぇゾ!って触れさせろ!
おかみ「そうだね、……ちょいと、青ちゃんたち、滝の手前に出てって見物が来たら地べたに気をつけて下さいって教えてやっとくれ。
青ちゃん「アイ、わかりましたニョロ、おかみさん。
オロチ「たのんだぞ。
おかみ「これでひと安心だね。
――などとふたりが安心して、お昼のお膳の仕度にとりかかったりしておりますと、突然、ドサドサドサドサーッドブーン!と、滝壺に落下物です。
オロチ「なんだぁこりゃぁ!
青ちゃん「ああっ!すんませーん。ちゃんと教えたんですけど、止まってくれなくて、
おかみ「おぉヤダよ、こいつらは馬鬼じゃないか!青ちゃんダメだよ、昨日のカレンダーの金言欄にあったろぅ、馬耳とうふーって。
2009.01.01 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 色物