『イガタス・ハギルの駆驟』
メリシ・コールダー/作 海茉 宙漣房/訳
白い満月西の空 下がって遠く鳴る鼓
音に集まる影達は 篭手と兜が青づくめ
あかつき前に打ち揃い 馬にまたがり歩み立つ
これは一体何者ぞ けだもの追いの者どもぞ
ふざけた手紙の文面が 事の起こりでその初め
巻かれた羊皮の真ん中に ポツポツ並んだ蟹文字は
ケダモノ・アザムキ・ナガラエテ アラシカスミノ・オモイゾメ
イガタス・ハギルノ・オトヅレヌ ノベニカオルカ・ベニノクサ
イガタス・ハギルノ おぞましき 身の毛のよだつ 蛮獣ぞ
イガタス・ハギルノ おぞましき 身の毛のよだつ 蛮獣ぞ
太き穂の先並べ提げ 駆れば撒き立つ馬ごやし
兜鳴る鳴るひづめまで 響くその音はげしけり
居並ぶ乗り手のその中で 最ものろき脚並みは
鼠色をばたたえる池に ほど近く住む足軽で
姓はバンゲル名はネルノ あぶみ踏むさえ大剣呑
弓箭(きゅうせん)・槍突き・追い羽根も 苦手でござるこの者は
しかれど誉れのある技の ひとつのみありその喉(のんど)
突き抜け伸びたる高音は 歩くラッパの呼び名あり
国守のふざけた文面に 従い馳せる同輩に
イガタス・ハギルノ追いやろと 血眼駆ける同輩に
自慢の喉で呼ばれども 明けの小鳥が邪魔をして
次第に離れてその影は 豆粒・炭の粉のごと
ネルノ・バンゲル おくれたち やがて荒れ野に ひとりぼち
ネルノ・バンゲル おくれたち やがて荒れ野に ひとりぼち
装備を固めているとても イガタス・ハギルノおぞましや
これではまずいと手綱打ち 速度をばすぐ上げんとす
その時あたりの狩り声に おどろき目の覚めたる体(てい)の
一羽の蝙蝠とびだして ネルノが面(おもて)へぶち当たる
(つづきはまた)
2009.02.08 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 小説